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横浜家庭裁判所 昭和49年(少ハ)5号 決定

少年 K・I(昭二九・二・二八生)

主文

本人を昭和五〇年六月二七日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

(申請に至る経過)

本人は、昭和四八年九月二八日当庁で特別少年院送致の決定を受けて、同年一〇月二日久里浜少年院に収容され、昭和四九年一月二二日に少年院法一一条一項但書による収容継続決定がなされたものであるが、同年九月二七日をもつて同決定による収容期間が満了となることから、同年八月一三日同少年院長より本件収容継続の申請がなされた。

(申請の要旨)

少年院内における本人の生活態度は比較的良好で、同年九月二日に一級上に進級したが、それは少年院という、統制の強い枠組の中でのことであつて、収容前にみられた本人の、無気力で自主性のない生活態度が完全に改まつたものということはできず、本人には依然として、自律性、自省性の欠如が認められ、今後グループ活動等を通じて、自他とのかかわり合いの重要さ、他人への思いやりの大切さ等を体験させ、対人的な成熟をはかり、自律性、自省性の内面化をはかる必要がある。又、本人は、以前、組織暴力団との関係を有していたことがあり、その影響によるヤクザ的思考態度を転換させる必要も存する。

さらに、出院後は本人は横浜市南区の実母のもとに帰住する予定であるが、実母は病身で歩行困難な状態で、監護能力、経済力共に問題があり、加えて暴力団との関係も考慮すると、長期かつ強力な保護観察に付するのが本人の保護のために相当である。

以上の点から、一級上で三か月間収容教育したうえで、同年一二月初旬に仮退院させ、その後約七か月間を保護観察の期間としたく、昭和五〇年六月二七日までの収容継続の決定を求める。

(当裁判所の判断)

1  本人は、生まれたときからのドヤ暮しで、両親の仲が悪く、経済的にも困窮していたために、親からの躾教育は全く受けず、又、学校も長欠して殆んど不就学のままに生育してきたもので、昭和四五年ごろから窃盗等の非行をなすとともに、暴力団○○組○○一家の事務所に出入りするようになり、同年一二月には組長の自動車を無断で運転して損壊したために、左手小指を切断するなどしている。

その後、暴力団との関係は切れないまま、昭和四六年八月には、競馬法違反で現行犯逮捕され、同年九月一〇日当庁で中等少年院送致の決定を受け、静岡少年院に収容された。そして同少年院においては、本人は非常に成績が良く、家具商の叔父のもとで就労するということで昭和四七年一〇月六日に仮退院したものの、実際には一日も叔父方では働かずに、横浜で沖仲仕等をやつて気ままな生活を送り、仕事のないときには路上で賭博を開帳するなどし、そのため昭和四八年九月七日に賭博開帳図利で逮捕され、同月二八日再び当庁で特別少年院送致の決定がなされたものである。

2  久里浜少年院における本人の生活態度は、前述のとおり非常に良好で、教官の指示にも素直に従つているが、まだ性格上、前記「申請の要旨」記載の問題が残つていることが認められ、又、前記静岡少年院においても本人は模範生徒であつたことからすると、本人は強い規制の枠組内では一応適応した状態を示すものの、自律性の欠如と無気力さに加えて、基本的な躾や生活習慣が身についていないことにより、少年院を出て規制が解かれると、態度が一変して放縦な生活に戻つてしまうおそれの存することが認められる。

従つて、今後本人については、一級上の比較的規制のゆるやかな状態における生活を通じて、自主性をはぐくむと共に、自己の人生に対して積極的な意欲をもたせ、かつそれが規制の解かれた後も持続しうるように教育して、静岡少年院の轍を踏まぬようにする必要がある。

3  さらに退院後の受入れ体制についてみるに、本人には実母がいるものの、リューマチのために歩行が不自由であり、今までは本人の実妹の世話で生活してきている状態で、保護能力は皆無である。如えて、実妹は昭和五〇年三月に結婚予定であり、又、実母の居住しているアパートも貸主から立退きを要求されているという事情にあり、退院後の保護環境には甚だ不安な点が多い。

又、本人は退院後は、異父姉の夫の世話で、一緒に横浜で塗装工として就労する気持でいるが、一方実母は当裁判所の調査に対して、アパート立退きを機会に横浜を離れる考えであると述べており、その間の調整がまだできていないことが認められる。

4  以上の事情を勘案すると、本人の犯罪的傾向は未だ矯正されたものということはできず、又、退院後も相当長期間保護観察を必要とする特別な事情の存在が認められる。そして、本人が昭和四九年九月二日に一級上に進級したことからすれば、同年一二月中には少年院内での処遇過程を修了するものと思われ、その後の保護観察期間としては約六か月が必要と考えられ、従つて本件申請どおり、収容継続の期間は昭和五〇年六月二七日までとすることが相当であると思料する。

よつて少年法一一条四項、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 西島幸夫)

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